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大いなる音楽の効用 : ミュージカル・ザ・ヒットパレード制作裏話 「46年目の初仕事」

第一回 「ショーが動きだした日」
ヒットパレード取材、と称して、鈴木聡・渡辺ミキ両氏と対談。春らしく黄色いシャツをクリーニングのビニールから出して着る。終了後、制作の奈緒子さんとスケジュール確認。顔を見合わせる。5月、半分はコンサートなどで埋まっている。6月、ほぼ3分の2が埋まっている。ヒットパレードのお稽古にはほとんど顔も出せない。冷や汗がツーッとほほを伝う。4月17日、一曲もまだ生まれていない。

最初のひらめきはその3日後には訪れていた。
「題名のない音楽会21」2週分の収録を終えた4月20日、M-1「ギブ・ミー・ミュージック」の作曲にとりかかる。作曲といっても、この一曲で台本の10ページ分が費やされている。戯曲ではなく、完全なミュージカル台本である。一番を半分歌ったところでシンさんと山崎のセリフ、あとの半分を歌った後でミサさんと洋子の芝居、やっと二番を歌い切るやいなや第一のメドレーへ突入。このオーバーチュアー代わりのメドレーが難問ではあるが、そこまでのメロディーは歌詞を一読しただけで聞こえてきた。
♪ミ・レ・ドー・ミ・レ・ドー・ミ・ソ・ソー♪
古めかしくて愛嬌があって、どこかで聞いたようで新鮮。こんなメロディーが無理なくやって来たことが嬉しい。あえて誰風といえば「宮川泰風」か。

メドレーの部分を考えながら感じたのだが、これは大変な作業だぞ、と改めて思い知る。RAG FAIR 6人のパートをボーカルスコアーの中に編み込まなくてはいけないからだ。しかしこれが今回のミュージカルの独自な部分なのだ。6声のコーラスが自在に舞台上で物語を進めていく。時には主役の背後でスウィーティーなコーラスを付け、時に重唱になり輪唱になり、6声のメロディーを歌う。舞台上では当然暗譜(譜面を見ないで歌う)であるから、練習のためにイの一番に彼らのパートを完成させねばならない。メロディーを作るだけではないのだ。

最初のひらめきから10日間(平原さんとのセッションCDの録音、ヒットパレード制作発表、クインテットの収録等、同時進行ではあったが)、4月30日、ようやくM-1が完成した。

5月1日、さっそく出来たばかりの「ギブ・ミー・ミュージック」を演出家山田和也氏とプロデューサー渡辺ミキさんに聞かせる。この日は1幕ラストの15分メドレーの選曲会議であったのだが、私は「とにかく聴いてくれ」とばかり、練習室のピアノを横取りして、そこに居合わせたスタッフ全員の前で唄ってきかせる。オリジナルミュージカル制作過程で、もっともスリリングで、もっともクリエイティブで、もっとも幸せな時間である。ショーが動きだした日。スタッフ全員、目を輝かせ、というよりも、すでに目頭を熱くしている。が、一番熱くなったのは私。「こんな曲が出来るなんて・・・」という感謝のような感覚。そしてそのことを私と同じく、あるいはそれ以上に理解したプロデューサー。お互い知り合って46年目の初仕事。ベストパートナーの予感。

それにしても時間がない。その日打ち合わせたメドレーのメニューを見るだけで気が遠くなる。15分=20曲のメドレーのスコアーを書かねばならない・・・しかもこれが氷山の一角という現実。


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